【FUSUMA】
僕が30歳の時、祖父が病に倒れ、呼び出された。
家業のふすま紙のデザイン印刷の会社は、父親が継いでいた。
若い頃の祖父は会社を創業すると、息子や弟子にすべてを任せて、
著名な日本画家に弟子入り。各地をスケッチにまわり、作品づくり
に没頭していた。
「お前が会社に入って手伝ってほしい。」
病床の祖父に言われた。
会社では、60歳を超える職人達に一から仕事を教わった。
前職は完全なデスクワーク。工場での一つ一つの工程を身体で覚え
た。
色を調合して、一発勝負で版を刷る。
色を変えて次の版を刷る。
手加工だからまったく同じものにはならない。
いつのまにか、ものづくりの面白さに夢中になっていた。
近年、和室はどんどん洋室へと変わり、ふすま紙の需要は減ってい
く。
祖父の絵をふすまにすること。ふすまを世に残していくこと。
どんなにいい絵やデザインがあっても、
ふすまが使われる場所がなくなってきている。
どうやって増やせるか。
新しいアイデアが浮かんでも、形にすることは難しかった。
大きな和紙に絵柄をつけてふすまにする。
ずっとその域を出られずにいた。
2020年、デザイナーと点描画家の二人に出会う。
ものづくりへの熱意で意気投合し、何度も打合せを重ね、
アイデアがどんどん形になっていった。
ふすま紙に描かれた点描画を、五十年間現役の印刷機で再現する。
木材、紙の貼り方、パーツなど、できる限り本物と同じ素材を使っ
て組み上げる。
こうして飾るふすま=FUSUMA”が完成した。